exhibition

白井明大の「詩と旧暦のある暮らし」展

2016.1.15(金)-19(火)12:00-19:00
フラスコ 東京都新宿区神楽坂6-16 tel 03-3260-9055 →link

■ギャラリートーク 白井明大×川原真由美 1.16(土)18:00〜
キャンドルを灯しながら、今回の本の話をしたり、詩をリーディングしたり。参加費千円

収録詩より

大事な何が

新しく一年生になる子らが
自分で自分の雑巾を縫うことより
大事な何が人生にあるだろうか

泣きべそをかいて
子が途中で投げ出したくなったとき
やめる勇気も時には必要だけれど
いまやめたら中途半端なことしかできない子になるよと
親が真剣な顔で諭すほど大事な何が

光は中庭に降り注ぎ
昼過ぎまで降っていた雨が去っても
ここに降り注いでまだ消え去らないものを
誰も忘れないあいだ

一枚の雑巾が
その子の手に握られた針と
針穴を通した糸とでついに縫われたことより
大事な何がこの世の中にあるだろうか

二〇一三・三 いわきにて

まき散らされたもの

 (かたばみ)

つついたとたん
ふるえた実の房から
いきおいよくはじけた種が
顔にぶつかったおかげで

あれ あそこ と
ちいさな指の爪くらいの黄色い花を
通りがかるたび大回りに
よけていくようになり

さわってみてと
ぼくにせがんでは
遠まきに見つめてばかりいるけれど

もうしおれて
ひなびた葉や茎になりながら
まき散らされた種は
あっちこっちの地面で
芽吹いてはまた
小さな花を咲かせるだろう

二度とさわるまいと思いつつ
気になっている子が
そっと近寄って花に 房に
ふれてみる日がまた来るだろう

 (おにたびらこ)

首里にも降った
見えない粒は
芝生に寝そべるぼくの背にあたって
まぶしい日の光の下で
かすかな放射線が細胞をなぞる

ヤシの木の根元で
まわりを草むらに覆いかぶさられながら
薄いかげりのなか
小さな花を浮かびあがらせ
何本も伸びているのは
どこからか跳ね返っているひかりのせい
生いしきる浅葱の芝のうえで
花の黄色が目立っているせい

なぐごはいねがぁ

細い茎の先に咲いて
大ヤシと
空を仰ぐ向きを同じに
やわらかな木かげでもかまわない
あかるく点る花冠をながめていると

ねねぇごはいねがぁ

おにたびらこが根を張る土の上に
眠ろうとしない粒子をまばらに探していく
花が風にゆれて
粒子は芝に降り紛れては
目に見えないあかりで
草を 庭を ぼくを照らす

なぐわらすっごいねがぁ
ねねぇわらすっごいねがぁ

ただ生まれ飛び来ただけの粒は
花のまえに名乗り出ようにも
数値にしか表われず消えることもできない

音の出どころ

おふろに入れていたら
うたが声をあげた
オスプレイだ!

窓がなくて外が見えない
ユニットバスにいても
換気扇の通風口づたいに
たしかにここまで聞こえてくる
プロペラを前やら上やら向けながら
雲や町にこだまして響く二重の音が

飛んでるの? ときみにきいたら
ベランダへ出て見てくれて
飛んでないよ
と答えて言うと
スイッチを切ったとたん
換気扇が止まり
音が止んだ

うたは何か言いたそうに
たしかめたそうに口をあけて
ぼくを見る
それに答えようとして言葉を見つけられず
目を上げると

ふろ場の入り口にいるきみは
戸の縁にかけた手をそのままにして
ぼくの耳から消えた音が
心のなかでもしずまっていくのを
ぜんぜん笑ったりしないで黙って
見つめ待っていた

布のうれしみ

後ろ襟のタグの角からいつも擦りきれちゃうね
ときみは目をとめて
Tシャツを洗たく機にほうる

好きなものほどよく着て布がやわらかく
着心地よくてよけいに着るから
順番に破けていくのを

たのんで
つくろってもらえるように
衣類ケースのわきに重ね置かれると

いいものを見つけたといって
ぼくが自転車に乗るから自転車の
星の
紺や水色の
ワッペンやあて布や刺し子糸で穴をふさぎ
ほつれを縫いつないでは
直してくれたのが畳まれてケースにしまってあるのを

また着ていけることの
うれしみに
きみの手のふれあとがしみ込んでいる

   橋

渡りながら
ここは道だと思う
来て
やがて行くことになるとしたら
いまが途中でありながら

岸と岸を渡すかぎり
続いていることに変わりなく
ううん いまいる場所が
もう町で

一歩歩き
立つごとに
代わる代わる訪れる
途中と場所とが居合わせるように
重なり合いつつ
そうだけでもなく

地からはなれて行きがかるとき
浮かびあがるなにもなさに
どこというどこともつかないよろこびが
渡ることとは
現れることなのか

はなれてみれば
いつかといつかの間にある
このひとところを生と呼ぶなら
間に生きるかりそめを
祈りといってもいいだろうか

白井明大詩集『生きようと生きるほうへ』

詩は祈りとは違う、でも、いまここから、生きてほしいと願う、詩とともに願う──震災後に沖縄に移住し、同時に、東北の現実と向き合うために旅を続ける詩人が、その重い時間と向き合い言葉を紡ぐ。いま本当に伝えるべきことは何なのか、詩にできることは何なのか、渾身の新詩集。

(思潮社ホームページから紹介文を引用)

収録詩

風声

大事な何が

まき散らされたもの
(かたばみ) (エピデンドラム) (インパチェンス)
(おにたびらこ) (ティナ、サガリバナ) (野朝顔)
(おおいぬのふぐり)(たちあわゆきせんだんぐさ)

校庭のかげひなた
間口と風 校庭のかげひなた 水筒のお茶
体のはじまり かんじるじゆう 音の出どころ
テーブルごしに話しかけてくる 布のうれしみ
米袋の中に 小さな沈黙 帰宅する夜
ことのつづき 道を歩く 間口と風

生きる

地球

著者:白井明大
編集:亀岡大助
装幀:中島浩
カバー写真:當麻妙
2015年7月30日発行

ISBN978-4-7837-3454-3
四六判上製・134頁
本体2,500円+税
思潮社刊

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